今回はハンドメイドカテゴリーの記念すべき一稿目です。今回のテーマはアイヌ文様。僕はあまりデザインとかそっち系のセンスは無く、絵も下手で配色とかも苦手なのですが、アイヌ文様にはとても興味があります。きっかけは些細なことでしたが、それから狩猟や北海道の自然と関わるようになり、自分でもデザインしてみたいと思うようになりました。なかなか行動に移せませんでしたが、思い立って2年経ったけど吉日、まず第一歩として「ヒグマの牙にアイヌ文様を掘ってみよう!」と行動を開始したわけです。
目次
なぜアイヌ文様?
あれはたしか、僕が北海道へ来て間もないころでした。北海道の中心部、札幌市には日本一長い?地下歩道があり、天下の歓楽街「すすきの」へ繋がっています。当時僕はすすきのでアルバイトをしていたので、その長い地下歩道を歩いてバイト先へ通っていました。その地下歩道に、アイヌ文様の入った布が飾られているんですよね。当時何の知識もなかった僕ですが、ふら~っとその作品の前に立ち、マジマジとみていると言葉にするのが難しいような魅力を感じグッとこれに引き込まれました。「THE・些細な事」ですよね。
アイヌ文化に触れる機会はとても多い
北海道で生活していると、アイヌ文化に触れる機会はとても多いです。先述のようにただ歩いているだけで展示やポスターが目に入りますし、千歳にある「サケのふるさと千歳水族館」に行くと、たまにアイヌの伝統的な歌や踊りを披露したりしています。もっと身近なところでは、北海道の多くの地名がアイヌ語由来になっており、僕が住んでいる地域にもアイヌ語で「足跡の多い山」という意味の地域があります。渓流釣りのスポットを探していると、「パンケ〇〇川」「ペンケ〇〇川」といった川の名前を目にしますが、パンケには上、ペンケには下という意味があり、川の上流や下流を表していたりします。
また、狩猟や山菜関連の本を読んでいると必ずと言っていいほどアイヌのお話が出てきますね。これに関してはまた別の機会にお話しできればと思います。
まずはアイヌについて学ぼう
まず第一歩として、そもそも「アイヌ」とはどういった人々なのか、そこを疎かにしてはなりません。と思います、文様も民族の大事な文化なので、ただ上っ面だけ見て真似するのは個人的に抵抗があります。とはいえ、Wikipediaや論文を流し読みしただけの浅い知識で語るものあれなので、興味のある方は自身で調べてみてください←オイ。
何かを学ぶ時は、やはり好きなもの、得意な分野、興味が沸く切り口から学び始めるのが頭に入りやすいですよね。アイヌのことを勉強するにあたって下記の本を購入してみました。まだ読み切っていませんが…。
本当は白老にできたウポポイにも行きたいのですが、なかなか都合が合わず行けていません。まあでも、ウポポイ以外にも北海道大学博物館やサケのふるさと千歳水族館等、様々なところで学ぶことができるので、とりあえずサッ行けるところから足を踏み入れる事が大事ですよね。あとは、論文や報告書、短報を読むのもおすすめですね。一つ論文を読めば、その引用から多数の情報が得られます。
→オススメ論文検索サイト「Google sholar」
アイヌ文様の基本
一説では、アイヌが着物に取り入れる文様には、呪術的要素が含まれており、着物の裾、袖口、衿などに文様を刺すことで悪いものが入らないようにしたと言われています。この項ではアイヌ文様の基本となる4つの文様を紹介していきます。
※「基本となる4つの文様」は僕が個人的に選んだもので学術的根拠はありません。
アイウシ文
アイウシは「棘がついている」という意味で、カッコを繋げているようにも見える事から括弧文とも呼ばれています。アイヌ文様の基本的な構成要素で、衣服に多く用いられる文様でもあるそうです。諸説ありますが、一般的には木の棘が虫を防ぐことから、この棘を身にまとうことで厄除けとなり、悪いものが寄り付かなくなるという意味があるそうです。覚えきれる気はしませんが、外側に棘がある括弧をソユンアイウシ、内側に棘がある括弧をアウンアイウシと呼ぶそうです。
モレウ文
モレウ文は「ゆるやかに曲がる」という意味で、モレウが二つ並んだウレンモレウや、先ほどのアイウシとあわせたアイウシモレウ等もあります。一説にはモレウの中心はフクロウ(おそらくコタンコロカムイ・シマフクロウ)の目を表しており、服には必ず各家の文様で目を置いて悪いものをにらみつけていたという説もあります。角ばったモレウはシッケウヌモレウと言われ、ラーメン用の器に記されている模様のような見た目をしています。アイヌの服についている文様と言われると、このシッケウヌモレウが真っ先におもいつくかもしれません。
ウタサ文
「十字の形」という意味で、バラエティに富んだ十字型をしています。たしかゴールデンカムイでも出ていた気がしますが、アイヌの人々は山でケガをすると、空に向かって十字を切り、悪いものを切るまねをしたそうです。
シク文
これは菱形の文様で、シクには「目」という意味があるそうです。これはアイウシ文の派生かなーとちょっと悩んだのですが、最終的にこれも含めて4つの基本文様ということにさせてもらいました。とんがっている部分はアイウシ文と同じように棘の役目を持ち、悪いものを寄せ付けないという意味があるそうです。
アイヌ文様にも著作権はある
アイヌは文字を持たず、口伝で歴史を紡いできました。その中で文様や印の持つ意味は大きく、男性は血族の証である「イトクパ」を代々受け継ぎ、自らの家系を示したり、自分専用の印である「シロシ」を掘り、自身の所有物であることの証明にしたりしたそうです。また、女性が衣服にあしらう刺繍(文様)も、母から子へ代々受け継がれてきたそうです。
なので、既に文様としてデザインされているものをそっくりそのまま真似するのは著作権違反となり、実際に裁判が行われていたりします。ただ、わりと直近に、自衛隊練習機が機体にアイヌ文様をあしらったマークを入れたことに対して、アイヌ民族と学者の市民団体が抗議をする事件がありました。この騒動のポイントは「アイヌ文様は先住民族の権利に関する国連宣言の伝統的知識に該当するため、当事者が管理・運用する権利を持つ」と市民団体が主張していることです。当事者にどこまでが含まれるかはわかりませんが、少なくとも僕は全くもって当事者じゃありませんし、商用利用するにしてもしないにしても、こうしてネット上に発信している以上市民団体から何か言われてしまうかもしれません。
なので、当然ですが今回は、上記の4つの基本文様を自分なりにアレンジして、クマの文様を作っていきたいと思います。訴えられたら素直にごめんなさいと言って出すもん出しましょう(涙とか嗚咽とか)。
クマの牙に文様を掘る
今回使うクマの牙は、市街地へ出没し駆除された個体です。僕が何をしたわけでもありませんが、強いて言うなら「初めてクマが止め刺しされる瞬間を見た」そのときの個体です。牙に加工を加えることに対しては賛否両論あると思いますが、賛の方も否の方も、コメントしていただければ必ずレスポンスは返します。
あと、いきなり最初から「牙」に対して「掘る」という手段を選んだのは失敗だったかもしれません。今だから言えることですが、はじめは木にチャレンジするべきでしたね…。
使う牙
今回使うのはコチラです。
牙を取り出し綺麗にしていく過程で、おそらく乾燥により片面が割れてしまった牙です。もう一本あるのですが、そちらは割れもなく綺麗な状態なので、今回の試作で手法やデザインが確立してからそちらに手を付けたいと思います。
考えた文様
自分でもびっくりするくらい良い文様が出来たと思います。これ、決してパクりじゃないですよ。ただただ上の4つの基本文様とにらめっこしながら試行錯誤を繰り返しました。デザインの基となるのは見ての通りクマの手。
こちらの写真を参考に原形をつくりました。また、クマの力強さの象徴である爪痕をシク文で表現してみました。ただ爪痕を追加したのは下書きしたあとだったので、今回の爪には反映されていません。
レッツチャレンジ
早速牙に下書きをしていきます。この時点では爪痕までは思いついていなかったので、手の文様のみです、そして下に変な虹みたいなセンスのない模様が書かれていますが、これには深い訳があるのです。
まず、ハンドグラインダー(ミニリューター)で下書きのラインを削っていくのですが、クマの牙は表層と中とで色の違いが無く、削った後が思いのほかよく良く見えませんでした。そこで、文様を削った後にマッキーで表面を黒く塗りつぶし、削った線が白く浮き出るようにしてみました。
この方法の方がよさそうですね。一度黒く塗りつぶしてからもう一度削ることで、よりはっきり文様がわかるようになりました。ただこの削る作業、骨とビットの相性が悪くとても時間がかかります。今回は試作で雰囲気を見るだけなので、虹のような模様はけずらずにマッキーで線を書いてそれっぽくしました。
一度仮彫りをした後に、全体を黒くぬりつぶすという発想自体は悪くなさそうです。模様も、もう少し手の込んだものをセンスよく配置すれば、より一層良い作品になりそうです。
衣服のメインは文様、マキリのメインは?
「アイヌ文様」って調べて頂くと、その多くは衣類に施されていますよね。僕もいくつかの論文を読んでいて気付いたのですが、「衣類」と「文様」というワードは基本的にセットになって登場します。
では、マキリや道具に彫られている模様はどうだったか、実はよく見てみると(よく見なくても)文様がメインではなく、一部文様が入ったりしてますが、多くは細かく精密な幾何学模様や鱗模様がメインとなっています。男性は女性へ装飾が施されたマキリを渡し、その出来を見て男の技量を推し量ったと言いますが、ううんーこの複雑な装飾、脱帽ですね。
※男性が木の器などに文様をメインにして装飾を施すこともあるようです
つまり何が言いたいのかというと、男である僕が布でなく牙や木に文様を掘るのであれば、細かくて精密な模様もなくてはならない!!ということです。え?意味がわからない…?そこまでこだわる必要はない…?ノンノン、僕A型なので。
というわけで、急遽爪に複雑な幾何学模様や鱗模様を描こうとしたわけですが、ちょっと鱗模様とは呼べない残念な虹模様が出来上がってしまったわけです。まぁでも、ダサダサの虹模様も、次のデザインではスーパーかっちょいい模様になっている予定なので楽しみにしていてください。
反省&まとめ&これからの計画
とまあ、こんな感じで試作を行いまして、模様だとかデザインだとかは置いておいていくつか反省点が見つかりました。まずダイヤモンドビットじゃ牙はうまく削れないということ。今回は家にあった一番細いビットでモノを削る能力があるものがダイヤモンドビットしかなかったため、それで行いましたが、次の製作に向けてハイス鋼ビットを購入しました。これで次はゴリゴリ削れるはずです。
また、今回はマッキーで塗りましたが、次回からは、一度模様&文様を削る→スプレーで全塗装→再度模様&文様部分を削る→2液性樹脂で表面をコーティングという手順で進めていきたいと思います。
とはいえ、ハイス鋼ビットが届くのはまだ数日後なので、それまでにバチバチにかっちょいい模様を完成させておきたいと思います。
※記事内で間違い・補足等ありましたらご指摘のほどよろしくお願いします。