今回ご紹介するのは、山と渓谷社から出版されている『羆撃ち久保利治 狩猟教書』です。まさに実用書。道具のことから獲物の追い方、野営や解体の方法、体験記と自身の狩猟哲学まで、一人の猟師を一冊に詰め込んだ一冊となっています。既に狩猟をされている方が読んでも面白いとは思いますが、これから「忍び猟スタイルで狩猟に取り組みたい」という初心者の方にこそ読んでもらいたい一冊です。
「一人の猟師を一冊に詰め込んだ」自分でもびっくりするくらいめちゃくちゃ良いフレーズですね。
久保俊治さんとは
久保俊治さんは北海道の道東地域にて、単独忍び猟でヒグマを追う熟練ハンターです。僕は残念ながら直接お会いしたことはありませんが、北海道で狩猟に携わっていると本や雑誌でその名を多々目にします。同じく山と渓谷社から出版されている『狩猟生活』を読んでいる人は、その名を聞けばピンとくる人が多いかもしれません。
1947年、北海道小樽市生まれで、20歳頃から村田銃で狩猟を始めたそうです。その後アメリカのハンティングスクール「アーブスクール」で狩猟について学び、現地でプロハンティングガイドを経験。日本へ帰国し、同じく狩猟について学ぶことのできる「アーブスクールジャパン」を開校しました。
『羆撃ち久保俊治 狩猟教書』の魅力
冒頭でも「一人の猟師を一冊に詰め込んだ」とナイスなフレーズで表現しましたが、この一冊には久保利治さんの道具から技術、考え方まで詰め込まれており、とても充実した一冊です。タイトルに羆撃ちとつくので、最初はクマにフォーカスされているのかと思っていましたが、実際読んでみるとヒグマを軸にして、すべての四つ足に通用する技術。そんな印象を受けました。また内容的にもシカやカモに軽く触れており、北海道で猟をするなら、教書としてはこの一冊で満足できるんじゃないかと思います。
本の内容は、実際読んでもらうのが一番なので、ここからは僕がこの一冊から実際に取り入れた技術を紹介させていただきます。
長靴にレインパンツで簡易胴長
長靴と防水仕様のレインパンツとの間を、ダクトテープなどでとめることにより簡易胴長にすることができます。僕のオススメは銀ピカのダクトテープ。僕はダクトテープを大体30cmくらいに切って折りたたんで複数枚携帯しています。銀ピカのダクトテープは防水性能ばっちりですし、絆創膏としても使うことが出来るので持っていて損はないですね。
恥骨を切り出して内臓除去
シカの解体をするときに、まず優先するのは内臓の除去ですよね。一番先に手を付けるのはお尻の穴周辺。僕はそもそも恥骨をのこぎりで切ってしまうなんていう発想がなかったので、丁寧にお尻の穴周辺をくり抜いて引っ張り出していました。なので本でこの方法を見たときは衝撃が走りました笑。ちょっと考えれば辿り着きそうなことですが、「解体とはこうであるべき」みたいな先入観が発想の自由を奪っていた気がします。
恥骨を切り出してしまえば上からサクサクくり抜く必要がなく、より素早く安全に作業ができるため、もうのこぎり無しの解体には戻れませんね。
銃口にテープ
これも、すぐに実践できる小さなことですが、やるとやらないでは猟の快適さが異なります。特によく雪がふるような地方では、雪が降っていなくても頭上の枝につもった雪が落ちてきたり、スキーで転んだりして銃口内に雪が詰まることが多々あります。一度銃口に雪が詰まると、それはもう取り出すのに大変な労力がかかるので、銃口にテープは必須ですね。
久保利治さんはセロハンテープを使っていますが、僕はマスキングテープを使っています。マスキングテープを銃口に貼ったまま撃っても、何の問題もなくシカは獲れます。
ほかにも背負子や簡易かんじきの作り方、ロープワークや一度で肉を持ち帰ることが出来ない場合の対処法等、明日すぐ実践できるフィールドテクニックが多数紹介されています。
心に残った一文
私の場合、夢をもち、温めながら実現するには常に時間がかかっている。特にいまやっているハンティングに関する学校『アーブスクールジャパン』は、二度目の渡米のとき、アメリカの師であるアーブ先生に、「お前なら、日本でもできるはずだから」と勧められ、資料なども譲り受けて芽生えてから、20年以上も温め続け、やっと数年前に実現にこぎつけたのである。
このように夢をもち、それを温め続け追い続けることは、あたかも私の猟の方法と同じであるように思える。足跡を探し、それに出会い追い続ける。
足跡の先には必ず獲物がいる。夢を温めている時間は、ときめきを感じながら足跡を追っている時間と同じではないのか。結果が出るまでには、刻がかかるものなのだ。
ただ、途中でほかの後に心を惑わされたり、楽な道を選ぼうとしなかった。その時その時で、いい所だけをつまみ食い的にチョイスできなかったことにあるのかもしれない。
久保利治著『羆撃ち久保利治 狩猟教書』2021 P316
「夢を温めている時間は、ときめきを感じながら足跡を追っている時間と同じではないのか。」「結果が出るまでには、刻がかかるものなのだ。」この一言がとても響きました。言葉にするのはなかなか難しいですが、僕は猟では物理的にも精神的にも、視線を遠くに目の前だけ見ないように意識していますが、実生活になると途端に、目先のこと、目の前のことに囚われてしまいます。常に気持ちが焦っているので、どうしても反応の早い結果を好んでしまいますし、遠い先を見通しての行動というのが苦手です。でも、夢という獲物をしっかりと見据えて、どのように追えば「最終的に」たどり着けるか、そういったことも少し考えてみようと思いました。これ後で読み返すとスッゴイくさい感想ですねハズカシー
何はともあれ、自信をもってオススメできる一冊なので、ぜひ皆さん読んでみてください!