皆さんこんにちは。今回はクマスプレーのお話です。今年は全道的にヒグマの出没情報が多く、先日の事件も相まってクマスプレーの売り上げがだいぶ伸びているようですね。かくいう僕もクマスプレー使用歴はまだ4年?で、つい先日2代目を購入したばかりです。
記事を書いていてだいぶ間延びしているような印象を受けたので、要点だけ先にまとめさせて頂きます。時間のある方はぜひ最後まで読んでください!
- スプレーは超危険!クマにも効くがヒトにも効果抜群!
- 咄嗟に使うにはセーフティを外す練習が必要!
- ホルスター(ホルダー)必須!1秒で取り出せないと意味がない!
- 暴発させたら周りを巻き込んだ大事件になる!
- 軽犯罪法や処分の方法に気を付けよう!
- スプレーを使うようなシチュエーションを作らないこと!
目次
クマスプレーとは
クマスプレー(ベアスプレー)とは、カプサイシンなどの強刺激成分を霧状に噴霧する製品で、グリズリーやヒグマをはじめとした野生動物の撃退に用いられます
基本的に河川や山中などの自然環境下での使用が想定されており、噴射しても周囲に影響がないよう、自然由来の成分を使っているものが多いようです。
製品により異なりますが、噴射の有効距離は2~10mで、消費期限は2年程のものが多いようです。ただ僕個人の意見としては、有効距離はそんなに重要じゃないのかな…と思ったりもします。値段は大体1万円周辺が多いですが、安いものだと6千円で購入できるようです。
商品を検索すると、ホルダーの付属しているものと、スプレー単体のものだと大体2千円くらいの差がありますが、初めて購入する人はホルスター(ホルダー)も一緒に購入した方が無難です。理由は後程述べます。
噴射方法はとてもシンプルで、セーフティを外してトリガーを引く(押す)と、引いている間噴射口から霧状の刺激物が出るという仕組みです。下記の二つが僕が今まで使ったことのあるクマスプレーになります。
実際に噴射してみて
僕自身、山を歩いていて腰からスプレーを抜きセーフティを外す…ということは何回かありましたが、幸いにも熊に対してスプレーを噴射したことはまだありません。
初めての試射
はじめての試射は忘れもしません。ちょうど2年前の6月頃、消費期限切れのクマスプレーを使って、抜いてから実際に噴くまでのデモンストレーションをしました。
対象は3m先のイタドリで、もちろん風上から風下に向かって噴射しました。セーフティを外しトリガーを押した瞬間、勢いよくオレンジの霧が吹きだしたのを覚えています。しかし、事件はその時起こりました…。
周囲から「逃げろォ!!」と声が聞こえた刹那、目の前が真っ暗になり目に激痛が走ります。林道でのデモンストレーションだったため、足場は側溝ありの砂利道、うかつに足を動かすこともできずその場にしゃがみ込むしかできません…。やがて鼻から鼻水が溢れ出し、咳が止まらなくなります。唇はビリビリと痛みを感じ、顔面はもうこの世の終わりのような惨状です。まさに“出るもの全部出てる”状態。なぜそんな事態が起こったのかというと、噴射して2秒ほどでつむじ風が巻いたためです。ギャラリーからはつむじ風が巻いたのが見えたようで、一目散に散っていきました笑。
5分ほど経過すると、クマスプレーの残留はなくなり、残ったのはくしゃくしゃにつぶしたような顔をした僕だけでした。ただ、ギャラリーには大層受けたので、身体を張った甲斐がありました。ちなみに、クマスプレーは脂溶性のため、水で洗い流しても成分は流れ落ちません。顔面全体に辛みとも痛みともとれるような刺激が広がり、二度目の悲劇を迎えることになります(経験済み)。
直近の試射
そんなこんなで、クマスプレーの威力は身をもって体験していた僕ですが、昨今のクマスプレー需要の増加を受け「スプレーの記事を書こう!」と思い立ちます。そこにちょうど良いタイミングで2年前も試射の現場にいた後輩達がはるばる遊びにやってきたので、今度は僕がカメラマン、後輩が撃ち手として2回目の試射を行いました(オイ)。
今度はつむじ風など起こらず、平穏に終わったか…と思いましたが、噴射してから約5秒後、鼻の奥にツンとした痛みと、喉に刺激が走ります。いや~もう出るわ出るわ、鼻水と咳が。ちなみに、スプレーの影響を受けたのは僕だけでなく、撃ち手と、7mくらい離れて見守っていた後輩ズのほぼ全員に咳や唇の痛みといった影響が現れました。
クマに対して効果はあるのか
まず、前提として言っておきたいのは、出会いがしらのワンパンチは防ぎようがないということです。
クマスプレーの有無にかかわらず、“不意の遭遇”というシチュエーションを作ってしまうこと自体が間違っています(特殊な職業は除く)。薮の中にいる熊を人間が見つける事は困難ですが、人間を先に見つけてもらうことは容易です。声を出す、鈴を鳴らす、爆音の音楽を流す、こういった対策すら行わない人は周りの人に迷惑をかけるだけなので、山に入るのはやめましょう。
ちなみに、一般的に「クマ鈴」というと上の画像のようなベルを想像する人が多いかと思いますが、化石取りで沢を歩いたりする人は下のような牛鈴をジャラジャラと6個くらい付けて歩く人もいます。クマ鈴はチリーンチリーン高音で少しうるさい音がなりますが、牛鈴はカランカランと耳に心地よい音がします。
話が反れてしまいました。「まずはクマを避ける」それを踏まえた上で、人を恐れず近づいてくるような熊や、防衛本能で攻撃的になった熊に対して効果はあるのか…?これは完全に個人の意見ですが“効果がある”というのは間違いないのかなと思います。
そもそも、前述したように五感が野生動物と比べて比較的鈍い人間ですらスプレーを浴びると、目が見えない、激痛が走る、鼻が利かない、などの症状が現れます。人間よりも嗅覚の鋭いクマからしたら、もうたまったもんじゃないでしょう。クマもまさかの反撃にビックリすること間違いなしです。
ただ、ビックリしたクマが“どんな行動をとるか”これは運としか言いようがないのではないでしょうか。踵を返して逃げ出してくれれば御の字ですが、最悪逆上して手あたり次第に触れるものを攻撃することも考えられます。実際に電気柵に触れてキレ散らかしたヒグマの映像を見た事がありますが、近くの立木や倒木に八つ当たりし、かなりご立腹でその場を離れていきました。あんな状態のクマを目の前にしたら、さすがに腰が抜けてしまうかもしれません。
おそらく実際にクマと遭遇してクマスプレーを使うとなると、命中させるにはこれくらいの距離で噴射する必要がありますし、咄嗟の噴射になるので風向きを考えている暇もありません。噴射した本人は目が見えない(可能性が高い)ため、その場から動くことが出来ず、熊はとにかく近くの藪に飛び込むか、パニックになって腕を振り回したりするでしょう。このシチュエーションで、人間が“一つの傷もなく生還”できるかどうかは、だいぶ怪しいかと思います。
もちろん、スプレーの最大射程距離9mを最大限活かせるような状況であれば、また結果は違ってくるかと思いますが、「効果はあれど安全を保障するものではない」というのは間違いなさそうです。
誰も教えてくれないクマスプレーの使い方
昨今のヒグマ出没数増加を受け「初めてクマスプレーを購入した」という方も多いのではないでしょうか。ただ、クマスプレーの正しい使い方、コレに関してバッチリな人は意外と少ないのではないでしょうか。
それなりに良いお値段のするものは日本語表記で、さらに説明書付きだったりするかもしれないですが、クマスプレーのほとんどが輸入品のため、説明が英語で書かれているものも少なくありません。僕が何も知らない状態で、英語表記のみのクマスプレーを手にしたとしたら、間違いなく暴発させていた自信があります。
まずはセーフティ(安全装置)を外す練習をしよう
僕が調査で初めて山に入った日、右も左もわからない状態でまず先生に教わったのが、クマスプレーのセーフティの外し方でした。
外し方は至ってシンプルで、親指をセーフティにかけて後ろ側に引っ張るだけですが、小さな衝撃で外れないようになっているため、片手の親指だけで外すのには少しコツがいります。ただ、練習せずに咄嗟の状況に陥った場合、セーフティが外れないことで更に判断力が低下することも考えられます。練習以上の結果は本番では出せないとおもって、何回かパチンッパチンッと外す練習をしてみましょう。
※練習のときは、間違ってもトリガーを引いてしまわないように細心の注意を払いましょう。また、万が一噴射してしまった時のことを考えて人気のない屋外で行いましょう。
スプレーとセーフティは紐で結んでおこう
セーフティをよく見てみると、小さな穴が開いていることに気付くと思います。この穴と指を入れる穴に紐を通し、セーフティが外れた後もなくならないようにしましょう。
モノによっては穴が開いていないのもあるかもしれませんが、そういった場合は結束バンド等で紐をガチガチに固定しましょう。後程述べますが、セーフティのないクマスプレーほど危険なものはありません。
1秒で取り出すためにはホルスターが必須
そして、冒頭でもお話しましたが、初めてクマスプレーを買う方は必ずホルスターとセットになっているものを購入しましょう。ズボンやアウターのポケットに入れても良いのですが、1秒でも早く取り出すためには専用のホルスターを用いるのが一番です。
ホルスターの構造は、大体上の二つに分かれると思います。構造的に一長一短で、左側のマジックテープのないホルスターはすぐに取り出せますが、落とす・ひっかけるなどのアクシデントが予想されます。右側のマジックテープ付きのホルスターは、落とす心配はありませんが、スプレーを取り出すときにワンアクション増えてしまいます。
重要なのは、どちらにもベルトループが付いており、「装備と固定するのはスプレーではなくホルスターである」ということです。よくやってしまう間違いでベルトやストラップにトリガー下の指かけ穴を固定する人が居ますが、これだと咄嗟に取り出すことが出来ません。
また、装備する場所も腰や太ももなど必ず手の届く場所に装備します。上の画像のように、僕は基本的にナイフや弾、クマスプレーは全てベルトに通して腰に巻いていますし、それに慣れているので目を瞑っていてもすぐに取り出すことができます。
クマスプレー関連のヒヤリハットでよく聞く話は「同行者にクマスプレーを渡したらリュックに入れられて咄嗟に出すことができなかった」という話で、複数人から聞いたことがあります。変わり種で、クマスプレーを渡したら虫除けスプレーのように使うモノだと思って肌に噴きそうになった。という話もありますが笑。
怪しい場所ではスプレーに手を添えるクセをつける
例えば、独りで山菜取りのため林道を歩いていたとします。この時、常にクマスプレーに手を添えておく必要はありませんが、目の前の笹薮がガサガサッと揺れたりした瞬間に、サッとクマスプレーに手を添えられるようにしましょう。
山に何回か入っていると「なんか嫌な感じだなぁ…」と感じる事がきっとあると思います。それはクマが原因なのか、はたまた霊的な何かなのか、気のせいなのかわかりませんが、そういった違和感を感じ取った瞬間にすぐにスプレーに手が行くように、日頃から意識しておくことが重要です。
絶対にやってはいけない使い方
クマ対策以外の用途で持ち歩く
わざわざ書くようなことではないと思いますが、クマ対策以外の目的で携行するのは軽犯罪法に該当する可能性があります。鉈や工具と同じように、ハッキリとした目的のもと携行するようにしましょう。また、ヒトに対しては威力が強すぎるため、防犯用途には対ヒト用の催涙スプレーを携行しましょう。
セーフティを外した状態で携行する
これも初めて持つ人はやりがちですが、絶対にやめてください。山ではいくら細心の注意を払っても、必ずこけたりひっかけたりふらついたり、想定外のことが起こります。そして、暴発させてしまった場合、目が見えず滑落、日の入り時刻までに車に戻れず遭難、ハチを刺激して袋叩き、など様々な二次災害が予想されます。
セーフティをかけずにクマスプレーを持ち歩いて暴発させるのは、鉄砲に実包を装填し「転んだら弾が出た」と言うのと同じです。また、よく聞く話が「車内で暴発させてしまった」という話。もうレンタカーなんかで暴発させたら大変です、いくら請求されるかわかりません。マイカーだってしばらく乗る気にはならないでしょう。
中身が入った状態で廃棄する
消費期限の過ぎたスプレーを、そのままごみ袋に入れるのもNGです。基本的に消費期限の切れたスプレーは人気のない山奥に行って、中身が無くなるまで噴射し続け空にします。これは行政も推奨している処理方法なので、別に違法でもなんでもありません。風の強い日に行うのがベストでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。繰り返しになりますが「クマスプレーを使う機会を作らないこと」が何よりも重要です。クマは比較的賢い生き物です。人間側が鈴や声、ラジオや音楽などで存在をアピールしていれば、ほとんどのクマは人間に姿を見られる前に立ち去るでしょう。クマスプレーはあくまで保険、精神安定剤として持っているのが理想です。
そして、人間側が存在をアピールしてもなお、人前に姿を見せるようなクマは、もうスプレーなしには対処できないといっても過言ではないでしょう。鉈や鎌で撃退した話もありますが、ガクガクに震えて言う事を聞かない身体で、向かってくるクマに鉈を振り下ろすのと、スプレーを向けて親指を押すのとでは難易度が異なります。
「家に帰るまでが〇〇」、僕の場合「家に帰るまでが狩猟(駆除)」というセリフを、真面目に週1回は言っていると思います。これはどんな趣味でも職業でも共通することだとは思いますが、クマに襲われて良い事なんて一つもありません。ヒトもクマも可哀想な結果を迎えるのみです。「スプレーはクマに対して刺激が強すぎる!過剰防衛だ!」と主張する人が稀に居ますが、人を襲ったことによって駆除される、そんなクマに対して、何を想うのでしょうか…。
と、そんな話をしても仕方がないので、今回はこのへんで締めさせていただきます!6千文字近い記事ですが、最後までお読みいただきありがとうございました。試してほしいこと、疑問などがあればぜひコメントしてください!!