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「人間どもこそ地球を蝕む寄生虫!!」岩明均『寄生獣』のすすめ

 今回は、「僕が人生で最も衝撃を受けた作品TOP5」に間違いなく入るであろう『寄生獣』について紹介していきたいと思います。ちなみに上の画像はただのヒルです。人生で初めて吸血されたヒルですね。

 作者は岩明均氏、1990年から1995年にかけて月刊アフタヌーンにて連載され、アフタヌーンKCから単行本10巻が発行されています。今回はおおまかなあらすじと登場人物、そして作品の中でとくに印象深かったセリフを紹介していきたいと思います。

アフタヌーン公式『寄生獣』

あらすじ

 物語の舞台は日本です。ある日突然、テニスボールサイズの卵が宙から降り注ぎ、パクリと割れてミミズのような寄生生物が孵化します。そのミミズのような寄生生物は、人間の鼻や耳といった穴から体内に侵入し、やがて脳を食べつくし宿主の身体を乗っ取ります。乗っ取られた宿主の主食は「人間」となり、卵が降り注いだ翌日から、寄生生物による「食事」が始まります。

 物語の主人公である泉新一は、その晩イヤホンを付けたまま眠っており、耳の穴からの侵入を防ぎます。続いて鼻の穴から侵入しようとする寄生生物を寝ぼけた勢いで引き抜きます。穴からの侵入を防がれた寄生生物は、泉新一の右手に穴を開け腕から脳への侵入を試みますが、驚いた新一にイヤホンで腕を縛られてしまい、脳へ到達することはできませんでした。やがて、寄生生物は腕の中で成熟してしまい、そこから泉新一と寄生生物(後にミギーと名付けられる)の奇妙な共同生活が始まります。

ミギーはこんな感じ

物語の見どころ

 この『寄生獣』の見どころは、なんといっても「種の違い」だと思います。泉新一は「人間」であり、ミギーはあくまで「寄生生物」です。ミギーら寄生生物は、食事を確保する上で人間社会に溶け込む必要があるため、人間の恰好、人間の言語、人間の生活様式を真似ていますが、人間と寄生生物は種として異なるため考え方や価値観が根本的に違います。

 人間は情を持ち、倫理観や道徳といった実体の無いものの影響を強く受けます。しかし、生命活動を維持するための三大欲求を満たすだけであれば、それらは必要ありません。それに対して寄生生物を始めとした動物たちは欲に忠実で、自らの食欲を満たすときに情は持ち合わせません。寄生生物から見ると、人間という生き物は特殊で理解し難い生物ということになります。

 この価値観の違い、異なる種が一つの身体を共有しているという設定こそがこの物語の最大の魅力だと思います。他にも、泉新一の心の変化、本能的に生きる寄生生物たちの人間社会への適応、こういったところもとても魅力的です。とても10巻で構成されているとは思えない作品ですね。

考えさせられるセリフ10選

 ここからは、寄生獣全10巻の中から僕が独断と偏見で選んだ「とても考えさせられるセリフ10選」を紹介していきたいと思います。僕の大大大好きな作品なので、どうぞお付き合いよろしくお願いします。

誰かがふと思った

地球上の誰かがふと思った「人間の数が半分になったらいくつの森が焼かれずにすむだろうか・・・・・・」

地球上の誰かがふと思った「人間の数が100分の1になったらたれ流される毒も100分の1になるだろうか・・・・・・」

誰かが ふと思った「生物(みんな)の未来を守らねば・・・・・・・・・・・・・」

岩明均『寄生獣』1巻p2-3

 物語の冒頭のセリフです。僕もよく考えてしまいます。地球の人口はうなぎ上りに増え、森林が開発され、汚染が進む。人間自身も、その数を自分たちで賄うことが出来なくなってきています。少子高齢化の進む日本ではあまり感じることはないかもしれませんが、海外に目を向ければ、人口の増加は非常に緊迫した問題であるということが実感できます。

 ただ、これから「地球のために人間の数を半分にします」と言われたとして、自分がその減らされる側を選択するかと言われると、必死に抵抗すると思いますね。地球の未来は心配だけれど、自分の命は差し出せません、ごめんなさい。

某国の上空から撮った一枚

悪魔に最も近い生物

シンイチ・・・・・・「悪魔」というのを本で調べたが・・・・・・いちばんそれに近い生物は やはり人間だと思うぞ・・・・・・・

間はあらゆる種類の生物を殺し食っているがわたしの「仲間」たちが食うのは ほんの1~2種類だ・・・・・・質素なものさ

岩明均『寄生獣』1巻p88 ミギー

 人間が日々殺している生き物の数と、既に絶滅させた種の数、数字を見ればこの地球上でどの「種」が一番他の生物を殺しているか、一目瞭然ですよね。寄生生物が食べるのが人間を基準に1~2種類だけだとすると、本当に質素なものです。シカですら食している「種」は20種類を超えるわけですから。

命令

※泉新一の「おまえらだって人間なんか食料にしなくても生きられるんじゃないのか!?」という問いに対して

たぶん・・・・・・・可能だろうな

ハエは・・・・・・・・・・教わりもしないのに飛び方を知っている

クモは教わりもしないのに巣のはり方を知っている・・・・・・・・・なぜだ?

わたしが思うに・・・・・・・・・ハエもクモもただ「命令」に従っているだけなのだ

地球上の生物はすべて何かしらの「命令」を受けているのだと思う・・・・・・・・・

・・・・・・・・・人間には「命令」がきてないのか?

わたしが人間の脳を奪ったとき1つの「命令」がきたぞ・・・・・・

“この「種」を食い殺せ”だ!

岩明均『寄生獣』2巻p18-20 田宮良子

イヌの形をした肉

かわいそうったって・・・・・・・・・死んでるんだぜ?

もう死んだんだよ・・・・・・死んだイヌはイヌじゃない

イヌの形をした肉だ

岩明均『寄生獣』3巻p128 泉新一

 これは、泉新一が道路ではねられ死んでしまった犬を公園のごみ箱に捨てた際に、ヒロインである村野に猛烈批判を受けた際のセリフです。泉新一の心の変化をハッキリと感じるワンシーンですね。命とは何か。

 狩猟も駆除も行い、家ではペットを可愛がっている僕ですが、僕の中では、個体が息を引き取り、瞳孔が開いた瞬間から、生き物ではなく「タンパク質の塊」に変わる感覚があります。もちろん、死んでしまったら雑に扱っていいという訳ではありません。ただそこに「命」はもうないと感じる瞬間があります。

 山のように積まれたシカの死骸や、山賊バラシされ無残に放置された残滓に心を痛めることもありますが、結局は自分も死んだシカの首にロープをくくって引っ張り、軽トラに積んで食肉処理施設や市の埋め立て処分場に搬入しているわけです。公園のごみ箱に捨てるのはダメで木の根元に埋めるのは良い、背ロースだけとってその場に捨てるのはダメで、個体まるごと処分場に捨てるのは良い、結局、何が良くて何がダメか、その線引きは個人に委ねられていて、それに同調圧力やらなんやらが作用して批判や賞賛に繋がる。死んでしまった生き物に対して倫理という視点でここまで熱くなることができるのも、人間特有な気がします。

他種との共存

寄生(われ)生物(われ)も成長しているのよ

ただやみくもに人間を食い殺しつづけることが安全な道でないことにもう気づいてるわ

これからはある意味で人間たちとの共存を考えなきゃならないところにきていると思うのよ

だから「仲間」どうしで集まり協力し合う必要がでてきたのだと思ってもらえば・・・・・・

・・・・・・別の生き物と議論してもしようがないんだけど・・・・・・

例えば人間と家畜を共存してると言えない?ブタから見れば人間は一方的な人(ブタ)食いの化け物になるわけだしね

人間たち自身がもっと雄大な言い方をしてるじゃない

「地球の生物全体が共存していかねばならない」

中には

「地球にやさしい」

なんて見当はずれなコピーもあるけど

岩明均『寄生獣』6巻p131-132 田村玲子

 「ただやみくもに人間を食べるのではなく、計画的に、安定的に人間を食べられるよう人間と共存していく」これは人間が他の生物に行っていることと同じですよね。寄生生物が動物の本能的な捕食から、この考えに至ったという点も考えさせられます。

こちらも某国での一枚

人間と寄生生物

人間についていろいろ研究してみた・・・・・・

人間にとって寄生生物われわれ

寄生生物われわれにとっての人間とはいったい何なのか

そして出た結論はこうだ

あわせて1つ

寄生生物と人間は1つの家族だ

我々は人間の「子供」なのだ

まあいい・・・・・・人間の感情では理解しにくいだろうからな

だが・・・・・・我々はか弱い

それのみでは生きてゆけないただの細胞体だ

だからあまりいじめるな

岩明均『寄生獣』8巻p58-59 田村玲子

 このセリフは正直難しいです。なぜたみやりょうこが「我々はか弱い」と言ったのか。物語終盤で、なんとなく理解できるような気もしますが、なぜこのシーンでこのセリフなのか。人間の感情では理解し難いとは言え、作者は人間なはずですからこの言葉の真意を確かめたいところではあります。どう解釈するのが正解なんでしょうかね。

疑問の答え

ずうっと・・・・・・・・・考えていた・・・・・・・・・

・・・・・・わたしは何のためにこの世に生まれてきたのかと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1つの疑問が解けるとまた次の・・・・・・疑問がわいてくる・・・・・・・・・・・・

始まりを求め・・・・・・

終わりを求め・・・・・・

考えながら ただずっと・・・・・・・・・・・・歩いていた・・・・・・

どこまで行っても同じかもしれない・・・・・・・・・・・・・・・・・・

歩くのをやめてみるならそれもいい・・・・・・・・・・・・・・・・・・

すべての終わりが告げられても・・・・・・「ああ そうか」と思うだけだ

しかし・・・・・・それでも今日また1つ・・・・・・疑問の答えが出た・・・・・・・・・・・・

岩明均『寄生獣』8巻p95-96 田村玲子

 このシーン、個人的に涙なしには語れません。大好きなシーンの一つです。

人間どもこそ地球を蝕む寄生虫

つっ立ってないでどこでもすわりたまえ

・・・・・・今回はきみたちの勝利と言っていいだろう

こと「殺し」に関しては地球上で人間の右に出るものはない

しかし きみたちがいま手にしている道具はもっと別の・・・・・・・・・・・・

さらに重要な目的のために使われねばならん

つまり・・・・・・生物界のバランスを守るためにこそ

きみたちの本来の仕事さ

「間引き」だよ

もうしばらくしたら人間全体が気づくはずだ

人間の数をすぐにも減らさねばならんということに・・・・・・

もうしばらくしたら・・・・・・・・・・・・「殺人」よりも「ゴミのたれ流し」の方がはるかに重罪だということに気づく

そして・・・・・・もうしばらくしたら我々という存在の重要さに気づき保護さえするようになるはずだ

きみらは自らの「天敵」をもっと大事にしなければならんのだよ

そしてこの天敵こそは美しい大自然のピラミッドにぴったりとおさまる!

人間の1つ上にな!

それでやっとバランスが回復する!

・・・・・・地球上の誰かがふと思ったのだ・・・・・・・・・・・・

生物みんなの未来を守らねばと・・・・・・

(人間に反論を受ける)

フン・・・・・・だから人間どもは好きになれん

最後にそうひらき直るのならはじめから飾らねばよい!

環境保護も動物愛護もすべては人間を目安とした歪なものばかりだ

なぜそれを認めようとせん!

人間1種の繁栄よりも生物全体を考える!!そうしてこそ万物の霊長だ!!

正義のためとほざく人間きさまら!!これ以上の正義がどこにあるか!!

生物全体のバランスを保つ役割を担う我々から比べれば

人間どもこそ地球を蝕む寄生虫!!

いや・・・・・・寄生獣か!

岩明均『寄生獣』9巻p114-119 広川剛志

 この物語の中で、最後まで己のためではなく地球のために動いたのが広川でした。かなり尺の長いセリフですがグゥの音も出ません。

物差し

ミギーとおれとで協力してきた戦い・・・・・・

それはどう見たって地球のための戦いなんかじゃない

人間だけのためというか・・・・・・おれという個人のための戦いだ

ミギーはともかくおれは寄生生物の立場に立つことはついにできなかった

そうとも もともとそんなことはできっこない

違う生き物どうし時に利用しあい時に殺しあう

でも理解わかわかあうことは無理だ・・・・・・いや相手を自分という「種」の物差しで把握した気になっちゃだめなんだ

他の生き物の気持ちをわかった気になるのは人間のうぬぼれだと思う

他の生き物は誰ひとり人間の友だちじゃないのかもしれない

でも・・・・・・

たとえ得体は知れなくとも尊敬すべき同居人には違いない

他の生き物を守るのは人間自身がさびしいからだ

環境を守るのは人間自身が滅びたくないから

人間の心には人間個人の満足があるだけなんだ

でもそれでいいしそれがすべてだと思う

人間の物差しを使って人間自身を蔑んでみたって意味がない

岩明均『寄生獣』10巻p175-176 泉新一

 「他の生き物の気持ちをわかった気になるのは人間のうぬぼれだと思う」その通りだと思います。直近ですと、「マガモ半矢なでなで事件」や「鉛中毒クラウドファンディング」等がありましたが、結局ほかの動物に「かわいそう」という感情を当てはめても、その動物が喜ぶわけでもありませんし浮かばれるわけでもありません。僕個人の意見として「血が出た獲物の写真をセンシティブ設定を行わずにSNSにあげるべきではない」「獲物は出来るだけ早く止め刺しを行う」といった考えはありますが、それを他人に強制する、自分と異なる意見の人を批判する、ということはしません。ただ、ほかの生き物の気持ちを考えることはできませんが、少なくとも人間同士は意思疎通ができるので、自分以外の他人の気持ちを考えて、より良い選択ができたらいいなとは思います。

心に余裕のある生き物

ある日道で・・・・・・

道で出会って知り合いになった生き物が

ふと見ると死んでいた

そんな時なんで悲しくなるんだろう

そりゃ人間がそれだけヒマな動物だからさ

それこそれが人間の最大の取り柄なんだ

心に余裕ヒマがある生物 なんとすばらしい!!

岩明均『寄生獣』10巻p215-217 泉新一&ミギー

まとめ

 いかがでしょうか。『寄生獣』に興味を持っていただけました?今回紹介したセリフ以外にも、魅力的なシーンやセリフがたくさんあります。10巻で完結するため、一晩あれば読めますし、中古本の価格も非常にリーズナブルです。恐らく世間ではマイナーな部類の漫画。だけども知っている人は知っている、そんな漫画です。

 いや、マイナーじゃないかもしれませんね、実写映画もやってアニメもやって、モンストコラボもしていましたから。ただ、映画やアニメは戦闘シーンにばかり力が入っていて、物語全体としてはチープな感じがしてしまいます。まだ見たことない読んだことないと言う方は、ぜひ漫画版を読んでみてください!

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