Hunting 狩猟論

くくり罠におけるショックアブソーバーの必要性について考える

 今回は、くくり罠におけるショックアブソーバー(ショックを軽減するためのゴムバンド等)について書いていきたいと思います。

くくり罠の基本

くくり罠の構造

 この記事を見ている方の多くは狩猟経験者なのかなと思いますが、念のためくくり罠の構造を解説します。

結合点にはシャックルやカラビナを用いる

 くくり罠にはたくさんの種類がありますが、基本的に根付けリード部分のワイヤーより戻しは全てのくくり罠で共通しています。

 バネはねじりばね押しバネ等があり、それぞれ利点と欠点があります。また、トリガーは跳ね上げ式落とし穴式等、作動方法や設置方法が異なり、状況に合わせた捕獲が行えるようになっています。

トリガーの構造

 僕が思うに一番構造が単純な、ねじりばね+落とし穴式のくくり罠を使って、トリガーの構造を説明します。

シカの足がヒトのハイヒールっぽくて気持ち悪いですね

 どのくくり罠にも基本的に共通しますが、獲物をくくるメカニズムは、曲げられたバネや縮められたバネが戻ろうとする力を使って「引き絞る」ことで獲物の足をくくります。

 この落とし穴式のくくり罠は、落とし穴の蓋となる受け皿と、落とし穴の余白を生むための筒、この二つの構造によって獲物をくくることが出来ます。仕組みは単純で、筒を地中に埋め、その上に蓋となる受け皿を重ねてワイヤーで引き絞っておきます。そうすると、受け皿を踏んだ際に皿のみが地中へ落ち、バネの力でさらにワイヤーが絞られ獲物の足をくくる。という仕組みになっています。

実際にねじりばね+落とし穴式のくくり罠を設置している様子

 このような罠を、シカやイノシシの通り道や誘因餌の近くに設置しておくことで、獲物を捕獲することが出来ます。

ショックアブソーバーは必要か

罠作動時の衝撃について

 ここで本題に入ります。くくり罠としては、上の画像にあるように、ワイヤー、バネ、トリガーがあれば獲物を捕獲することができます。しかし、くくり罠が作動すると、かかった獲物はビックリして暴れまわり、ピンと張りつめたワイヤーは個体に大きなダメージを与えることがあります。

 まずはくくり罠が作動した際にシカがどのような動きをするか見てみましょう。

罠が空はじきしてシカが逃げる様子

 罠が空はじき(作動ミス)した瞬間、大きく飛び跳ねてそのまま遠くまで駆けていきました。画像の奥まで40mほどあるのですが、あっという間に到達しています。

 続いて、下の画像は90㎏のオスジカがショックアブソーバーを付けていないくくり罠にかかった際の画像になります。白黒と加工でマイルドにはしてありますが、少々ショッキングな画像になりますので注意してください。

意図的にボヤかしています

 スネとカカトの関節で開放骨折しています。とても痛ましい光景でした。シカも生きるのに必死なため、この状態になっても逃げようとします。シカやイノシシがくくられた足をちぎって逃げる話もよく聞きます。

 このように、衝撃によって個体が損傷することは、動物福祉の観点だけでなく、食肉利用や安全な捕獲といった観点からも望ましくありません。鹿を必要以上に苦しませ、肉の質が悪くなるのはもちろんのこと、損傷部位の出血や個体が衰弱することで、カラスやヒグマが寄ってくることがあります。

ショックアブソーバーとは

 上記のようなケースを避けるために有効な手段が、ショックアブソーバーの追加です。

ゴムバンドやスプリングを用いる

 ショックアブソーバーなんてちょっとカッコイイ言い方をしていますが、要はゴムバネなどでワイヤーにテンションがかかった際の衝撃を吸収する機構があれば良いわけです。

ワイヤーより先にゴムが伸びきるように設置するのがコツ

 仕組みとしては、ショックアブソーバーが無い場合だと、作動時にまずワイヤーに負荷がかかるのに対して、ショックアブソーバーをつけることで、最初にゴムに負荷がかかり、ゴムが伸びきってからワイヤーに負荷がかかるため作動時の足への衝撃を軽減することができるというものです。

実際に装着した様子

 実際にショックアブソーバーを装着したくくり罠にシカがかかった際の映像を見てみましょう。

手前の若いシカがかかります

 ショックアブソーバーが付いていてもかなりの衝撃に見えますが、ゴムの力によって少し引き戻されています。実際には、シカが何度も逃げようとすると樹皮とこすれてゴムが切れてしまったりしますが、罠作動時が一番力強く逃げようとするため、初回の衝撃を吸収するだけでも大きな役割があると思います。ゴムが切れたとしてもワイヤーで確実にくくられた状態は維持できるため、逃げられる心配もありません。

 また、ショックアブソーバーの長さを変えて二重で設置したりすると、段階的に衝撃が吸収できるため、個体の損傷をより減らすことができます。

付けている人はどのくらいいるのか

 僕の周りでくくり罠をやっている人は、ショックアブソーバーを付けている人が多いですが、僕がそういった人達から罠を教わっていたのと、北海道はくくり罠で捕獲できるのがエゾシカのみという背景も影響しているかもしれません。

 そこで、最近始めたTwitterのアンケート昨日を使ってSNSの狩猟界隈の人々に聞いてみました。結果!

5名の方、ありがとうございます

 圧倒的、人望&フォロワー不足。どこの馬の骨とも知れない若造のアンケートなんて答えませんよね..。しかしながら、少なくとも1人は付けていて1人は付けていないようです。人望フォロワー不足ですいません。

必要なのか必要ないのか

 まとめです。結局は個人の判断によりますが、僕は必要だと思います。ただそれは、できるだけ獲物に苦痛を与えない、肉質を悪化させないという観点から必要だと判断しているため、万人に共通するわけではありません。最終的には止め刺しを行うわけですし、例えケガをしていなくても罠にかかった恐怖というのは人間には計り知れませんから。肉を食べない、利用しない人にとってみれば肉質の悪化もだからどうしたという話になりますよね。

 さらに言えば、ゴムバンド等の人工物を増やすことに抵抗を覚える人も多いんじゃないかと思います。特に本州でイノシシを捕獲しているような人は、イノシシの嗅覚に対して警戒心が強いので、極力不自然な臭いがしないように注意する人もいます。個人的には、人工物感丸出しの檻罠で捕まるわけですから、くくり罠だろうと何だろうと警戒心の緩い個体は捕まるし、警戒心が強く賢い個体はどんな手法でもなかなか仕留められないんじゃないかとは思いますが。

 くくり罠は、ワイヤーを隠す隠さない、罠一式を数日水につける、人の臭いを消す消さない等、人の数だけくくり罠論がありますし、どんな方法でも大体の人が成果を挙げているので、どれが良くてどれが悪いというのは判断が難しいですよね。罠だけでなく、設置場所によっても結果が大きく異なるわけですから。

 今回はくくり罠の中でショックアブソーバーにのみ焦点を絞って記事を書きましたが、トリガーへのこだわり、シャックル派かカラビナ派か、ワイヤーは何mmを使うのか等、深堀りしたらきりがないので、また気が向いたらor要望があれば記事にしたいと思います。最後まで読んでくださりありがとうございました。

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