Hunting 狩猟論

初心者向け!!クマを獲るのに必要なスキルと技術。

 皆さんこんにちは。先日、といっても少し日は経ちましたが、数年間牛を襲い続けてきたOSO18が、釧路町でハンターによって仕留められました。ハンターの詳細についてはなかなか情報が出てこないですが、判明しているのは鉄砲を所持して4年程度であること、そしてOSO18が初めて獲ったヒグマであるということです。

 初めてのクマがOSO18、一体どんな感情を抱くのでしょうか。OSO18は牛に反撃を受け負傷した過去もあり、実際皮膚病に侵されていたということから、衰弱していたと考えることもできますが、なんにせよずっと追われ続けていたヒグマを獲ったということに変わりはありません。ただただ、脱帽です。

この記事で伝えたい事

 もともと、ゆくゆくは「クマを撃つために必要な事」という記事を書きたいと思っていましたが、それは僕がハンターとしてもっと熟してからの予定でした。ただ、今回のOSO18の一件を受けて、「まず今書けるだけの内容で記事を書こう」と思い立ち、下書きを始めました。なぜそう思い立ったのか、それは一重に“不幸な事故を減らしたい”という想いがあるからです。これはもちろん人にとっても、そしてクマにとってもです。

 僕が散弾銃を所持してそろそろ11カ月が経つでしょうか。「いや、オメーも初心者じゃねえか!?」というツッコミはスルーさせていただいて、この11カ月で色々な経験と出会いがありました。それは人とも、クマともです。そして感じるのは、クマに憧れを持つハンターは意外と多いということ(少なくとも北海道では)、そして鉄砲持ちたての初心者が多くの割合を占めること、そんな中で猟友会に入りベテランに師事する初心者が減っていること、肌感覚と見聞きしただけの情報ですが、そう感じます。これが良いか悪いかをここで議論するつもりはありません。僕は猟友会に入り師匠を始めとしたたくさんの先輩ハンターと出会い、会の恩恵もたっぷり受けていますが、その一方で会の良くない部分や限界もしっかりと把握しています。体制であったり、お金のことであったり、教育であったり。

 ただ、事実として「猟友会に入らず狩猟(有害駆除)がしたい」というハンターさんは少なくありません。そして、そういった方々が「クマを獲りたい」と目標を掲げるのは自由です。他人と地域に迷惑さえかけなければ、決して誰にも口出しされることではありません。そういった初心者のハンターさんたちにとって、この記事の内容が“ひとつの判断基準”になれば幸いだなと思い立ち、本記事を書くに至りました。

最も重要なスキルは判断力

 まず、銃猟において「クマを獲るために一番大事なものはなにか?」と聞かれたら、間違いなく「判断力」と答えます。判断力といっても、抽象的すぎて何をどう判断するのかいまいちピンとこないと思います。参考までに、僕がクマを目の前にしたとき何をどう判断しているのか、その一連の流れを紹介したいと思います。

・判断基準①法律的に獲れるのか獲れないのか

 まず基礎の基礎、法律的に撃っていいのか獲っていいのか、ここからすべてが始まります。当たり前の事ですよね。ここで考えるのは、捕獲許可の有無(狩猟、春季管理捕獲、被害防止など)。発砲可能場所かどうか。バックストップがあるか。道路を挟んでいないか。等々あげればキリがありません。そもそも論、どれかひとつでも引っかかるのであれば「獲る」という選択肢は吹き飛びます。

中央の木の上にいるヒグマ。この時は師匠が撃ち下ろしで捕獲した。

・判断基準②自分が死なないか

 そして、基準①をクリアしたら、ロケーション及びシチュエーションを判断します。仮にクマを撃って、自分に向かってきたとき2発目が撃てるのか。地形的にこちらが有利なのか。具体的には、クマが自分より下にいるかどうかと、その間に障害物があるかどうかが重要です。自分が死んだら元も子もありません。自分の中では「一対一の勝負に敗れただけだ」と納得できるかもしれませんが、遺体を捜索する人、残された人、たくさんの人に多大な迷惑をかけます。「絶対に自分は死なない」なんて“絶対”は存在しませんが、極力勝てる勝負にしなくてはなりません。

体重60kgのクマでもこの爪の鋭さ

・判断基準③半矢(手負い)にした場合捜索できるのか

 そして、もし仮に弾は当たったけど逃げられてしまった。そんな時、捜索できるような場所なのかどうかも重要です。クマはダメージが深ければ深いほど近場に隠れると言います。クマを撃った後に迂回して現場を見れるか、捜索時に自分がやられるリスクがどれくらいあるのか、そういったことを考えなくてはなりません。「手負いで逃げられちゃったけどまあいいか」というわけにはいきません。藪の深さや傾斜、地形などを俯瞰して、もしもの場合に備えましょう。

・判断基準④確実に仕留められるか

 “絶対”がないのであれば“確実”もありませんが、自分の中で「この距離この状況なら確実に仕留められる」という自信が必要です。それは、委託先の有無であったり、クマとの出会い方であったり、自分の体調であったり、様々な要素に左右されますが、僕は、自信というのはそれまでの経験値から沸くものだと思っています。自信が無かったら引き金を引いてはいけません。むしろ、引いても当たらない可能性が高いです。

・判断基準⑤引き上げ回収、または解体運搬ができるか

 ここまで来てやっと、獲れた後のことを考えます。撃った後回収できるのか、または解体運搬までこなせるのか。林道のすぐそばで仕留めれば楽ですが、僕の経験上、といいますか、撃つロケーション上、クマは引き上げすることが圧倒的に多いです。平坦な場所を引っ張ることもあるにはありますが、シカみたいに上から転がして楽に運べるということはほぼありません。こういった状況も、独りで撃つなら一人で、ウインチや滑車を駆使して乗り切らなければなりません。

・最終的には自分の判断

 この①~⑤までの判断基準を何度もぐるぐる頭の中で回して、最終的に撃つか撃たないか判断します。一人で行くのか複数人で行くのか、それは状況によると思いますが、最終的に獲れる獲れないを決めるのは引き金を引く人です。撃つ撃たないもそうですし、やめるやめないも同じです。そして、判断した以上責任を持つ必要があります。それは絶対に逃がすなという話ではなく、仮に手負いで逃がしても、ほかのハンターに頭を下げて捜索の協力をお願いするなど、自分が始めたことに落とし前をつける必要があるという話です。

次いで大事なのは「胆力」と「恐怖心」

 そして判断力に次いで重要なのは、やはり精神力。胆力や度胸といった形のないものです。そして、胆力や度胸といったものと性質的に相反するであろう恐怖心も間違いなく重要です。

・自分の指を動かす「胆力」

 この項ではあえて「胆力」という熟語で表現させてもらいますが、胆力というのは辞書で引くと以下のように出てきます。

事にあたって、恐れたり、尻ごみしたりしない精神力。ものに動じない気力。きもったま。

デジタル大辞泉(小学館)

 仮にクマを目的に山に入っても、「銃を持っていて、しかも撃てる」という状況でクマを目の前にしたときというのは、もの凄く怖いです。銃を持っていなかったら決して生まれることのない「獲る」という選択肢が生まれるためです。「獲る」ことにはリスクがつきます。上述したように自分が死ぬかもしれませし、死せずとも大きな痛みや身体障害が残るかもしれません。極力そのリスクを減らすために、しっかりと判断し状況を見極める必要があります。ただどれだけ場が整っても、絶対に安全ということはありえません。マンションの6階あたりの手すりに立っているような恐怖感。「一歩間違えば死か限りなく死に近い何かが待っている」引き金にかけた指は固着したようにがっちり固まって、たった数ミリ動かすのも簡単には叶いません。

 でも、撃つ寸前まで恐怖心に支配されていると、汗で滑って頬付けは甘くなり、スコープのレチクルはぶれ、撃つ寸前に目をつぶったり力んだりしてしまう可能性が高くなります。つまり、撃つ瞬間はこの恐怖心を“乗り越える”必要があります。この恐怖心を乗り越える力こそが胆力だと思っています。別に胆力というワードにこだわりはないです。度胸でも勇気でも、とにかく“手すりに立った状態から一歩踏み出す力”これが必要です。まさに「事にあたって、恐れたり、尻ごみしたりしない精神力」これですね。

・正しく恐れる恐怖心

 ただ、胆力と同じか、それ以上に「恐怖心」も必要です。クマの恐ろしさをしっかりと認識し、恐怖するからこそしっかりとした対策と準備が行えます。そして何より恐怖心は責任感にもつながります。「自分が死んでしまうかもしれない。それはいったいどれほどの人に迷惑をかけるだろうか」「仕留めきれないかもしれない。半矢の捜索はどれほど怖いんだろうか」「仕留めきれなかった手負いのクマが山菜取りを襲ったりすることはないだろうか」こういったことを連想させる根源は恐怖心だと僕は思います。

 加えて、“正しく”恐れることが重要です。巷にはクマ、特にヒグマをまるで怪物のように誇張する表現がたくさんあります。ヤフーニュースのコメント欄を見ると、撃ったこともないのにまるで常識のように「クマの頭は固いから狙ってはいけません」と言う人がたくさん居ます。もちろん、クマの頭が強度と角度的に弾頭を弾くことはもちろんあります。でも、選択肢から外すのは間違っています。クマが後頭部を見せた時、確実に当てられるなら僕は頭を狙いますし、即倒させれば捜索する手間も手負いで藪に入られるリスクも減ります。

 相手は怪物ではなく野生動物です。神経系を破壊されれば身体を思うように動かすことはできません。血液を大量に失えば失血死しますし、水に沈めば窒息死だってします。必要以上に恐怖する必要はありません。

 でも、相手は野生動物ですから、死に物狂いで抵抗しますし、土壇場の馬鹿力も発揮します。人間の裏をかくこともあれば、予想外な動きをすることもあります。さまざまな情報や知識を集められるだけ集めるのは良い事ですが、その情報を精査して、自分なりの解釈に落とし込むこみ、経験とすり合わせていくことが重要だと思います。

忍び猟の実用書。久保俊治著『羆撃ち久保俊治 狩猟教書』のすすめ

最後に、腕は必要だけど”凄腕”じゃなくていい

 判断力、胆力&恐怖心と来て、最後に重要なのが“腕”です。

・どんな射撃技術が必要か

 一重に腕と言っても、腕を構成する要素は多種多様です。例えば、「どれほどの射撃の精度があればいいのか」という点だけに着目すると、概ね下記の技術力が必要になるかと思います。これは僕が勝手に考えた数値ですし、あくまで僕の住んでいる地域(比較的低い山が多い)で考えた場合なので、本州をはじめ、道東、道北、道南でまた違ってくるということを念頭においてください。

  • 委託あり100mで20cm以内の集弾
  • 委託あり50mで15cm以内の集弾
  • 委託なし50mで30cm以内の集弾
  • 委託なし20mで10cm以内の集弾

 これに加えて、走って息が上がった状態でしっかりと的を狙えるか、次弾の装填が素早いか、すぐに射線を確保できるか、委託箇所をすぐに見つけられるか、こういった技術も腕を構成する要素かと思います。

・凄腕である必要はない

 「凄腕ハンター」って、やっぱりハンターなら憧れます。いや、少なくとも僕は憧れます。300m先の500円玉を撃ち抜く(凄腕に入るかわかりませんが)…めちゃめちゃカッコイイと思います。800m先のクマを仕留める…まさしく凄腕だと思います。でも、決してクマをやるのに凄腕でなくてはならないなんてことはありません。それよりも、「自分はこの距離とこのロケーションなら絶対に外さない」という自信のある状況を自分の中に持っておくことが重要です。その自信のある状況が、他人より遠くても近くても気にすることはありません。その基準を自分の中に持っているということが引き金を引くうえで何よりも重要です。

・腕よりも優先すべきものがたくさんある

 そして腕よりも大事なもの、それはここまで書いてきた諸々です。腕っていうのは「引き金を引く」この段階まで到達した人に求められる技術ですが、引き金を引くまでにやるべきこと、見極めるべきことはたくさんあります。そして、「引き金を引かなかった」これもとても重要なことです。状況的に一瞬すぎたり遠すぎたりして「引けなかった」はよくありますが、クマを目の前にして「引かなかった」これは自身で判断した結果です。なにも悪い事ではありません、恥ずかしい事でもありません。

クマに対してやってはいけないこと

 まだ僕の熟練度では、「〇〇したほうがいい」とか「〇〇のときは〇〇しろ」だとか、そんなことを皆さんに伝えることは恐れ多くてできません。もしかすると、どれだけ経験を積んでも十熊十色、クマによって個性があるので、そんなハウツーを公表することはできないかもしれません。でも「やってはいけない」これは自身の経験から、様々な書籍から、そして熊の生態から、ある程度言えると思います。とくに初心者さん向けとなれば少しハードルが下がります。

・親子グマの子から撃つ

 クマ撃ちの大原則で、「親子は先に親を撃て」というものがあります。母親を先に仕留めれば子は親に駆け寄るか近場で藪に隠れますが、子を先に撃った場合、怒り狂った母親がハンターめがけてすっ飛んでくる可能性があるためです。僕は幸い、親子に直接出会ったことがありませんし、親子に銃を向けるということも今のところありません。周りにも「親子グマは居ても獲らないよ」というハンターさんが少なからずいます。でも、万が一親子に銃を向けることがあったら、絶対に親から撃つように常に心がけています。

 そして、大型犬くらいの、親離れしたかわからないようなクマを見つけた場合、最も注意が必要です。クマを見つけた興奮で引き金を引いてしまうと、大惨事になりかねません。とくに木にしがみついたりのぼったりしているようなクマだと、近くに親が居る可能性があります。そういった面でも、やはり冷静な判断力が不可欠となります。

・撃った後に“安易”に近づく

 クマを追い、初めて撃てる距離で出会って、もの凄く有利なロケーションで、うまく弾が入って、クマが一発で動かなくなった。だとしても、決してすぐ近付いてはいけません。興奮して「早く生死を確かめたい!!」となる気持ちもわかりますが、自分のために5分間は静観しましょう。ハンターがクマにやられたケースの大部分は、手負いを追った時と死亡の確認をしにいったときです。

 5分間待機するときに「タバコを吸う」っていう話はこのブログでも何回か紹介させて頂きましたが、最近ベテランに聞いた話では「食べ物を食べる」というのも効果的だそうです。食べ物が正常に飲み込めれば自分は落ち着いている、逆にうまく喉を通らなかったら自分は冷静じゃない。というひとつの判断基準になるそう。

※ちなみに「容易」と「安易」はどちらも「たやすいこと」という意味ですが、安易という言葉には「工夫や努力がないこと」という意味も含まれるそうです。ひとつ賢くなりました。

・自分より上に居るクマを撃つ

 自分より上に居るクマを撃ってはいけないのは、撃った後自分の前に転がり落ちてくる可能性があるためです。鹿なら「お、引っ張る手間が省けた、ラッキー」くらにしか思いませんが、死にかけのクマが目の前に転がってくるとなると話は別です。先日、海外の狩猟動画で樹上30mほどのところに上っているクマを撃ち、落ちたクマに近づいた同行者が襲われるという動画を見ました。人間だったら30mの高さから落ちてすぐは動けませんが、野生動物は違います。撃ち下ろしの方が矢先の安全確保も、身の安全確保もリスクが少ないのは間違いありません。

まとめ

 いかがでしたでしょうか。この記事に書いたことは決して「正解」ではありません。十熊十色、本当にケースバイケースです。僕自身この記事を書いていて「あ~ここ書き足りないなぁ」「もっと補足したいなぁ」と思う部分がたくさんありました笑。でも、獲る人というのは、きっかけさえできてしまえば猪突猛進、自分で色々な情報を集め精査し実践していくので、この記事が獲りたい人のきっかけになればと思います。

 もし反響が大きければ、より深堀りした続編を書くかもしれませんが、実は僕、内心結構ヒヤヒヤしています。批判が来ないか、あいつ偉そうだなと思われないか、たった数頭獲っただけで調子乗んなと言われないか…。まぁでもその時はその時ですね。冒頭でも述べましたがこの記事を書いた一番の動機は「自分の力量を見誤った状態でチャレンジしてほしくない」これが一番大きいのです。日頃からヒグマの出没対応や山歩きをしていると「あ、一歩間違えれば死んでいたな…」と思い返すことは度々あるのです。それが市街地の出没対応なら、まだ骨を拾ってもらえる可能性は高いですが、山の中となると話は別ですよね。クマに鉄砲を向けて弾が出ない、撃って外して襲われる、家の中にクマが入ってくる、そんな嫌な夢もたくさん見ます笑

 そんなこんなで、まずこの記事を公開してみて、しばらく様子を見てみようかと思います。何か聞きたい事、知りたい事、感じた事があればぜひコメントしてください。よろしくお願いします。

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